「自分よりも苦労している人はいくらでもいる」と思えるようになったのは、逆説的だが「これ以上ない」と感じる苦痛を経験したあとだった。
どうしても引受けねばならぬことがあり、それが理由もなく平気で外からやってくる。
始めからそういうものだったと、世界のありのままの姿を知りようやく盲目から醒め、人の世の入り口に立てた。
自分の恵まれた点に目がいかないうちは、他者の戦いに真に目がいくこともない。
「私よりも苦労している人はいくらでもいる」と言葉では知りながら、実際は他人など眼中にないのが常である。
そういう盲目を、必ず打破しなければならないとも思わない。
打破せざるを得ない状況・運命が存在するというだけのことだ。
けれども、そんな盲目を切り開く道こそ、人間に生まれた醍醐味を最大に感じさせてくれる言わば贅沢さを秘めている、そう感じている。